発酵食品を通して現代社会の問題をも投げかける
宮本輝作品の魅力は、登場人物から溢れ出る人間味と身近なテーマだとMoominNは思う。
人間味の象徴として、思ったことを関西弁で誰かに訴える場面が多い。これは筆者の叫びなんだろうが、読み手もスカッとするし、こういう考え方や口に出して言うことって大事だし、必要だなと思わせてくれる。
そして身近なテーマ。家族愛や社会問題が多いが、異色のテーマが時々ある。それが👇
主人公は経済的な問題を抱える若き編集者が、発酵食品の本の企画を依頼さらることから始まる。個性豊かな編集協力者たちと共に発酵食品を通した人間ドラマが繰り広げられる。
作中の発酵食品については、かなり事細かな描写、説明がされている。また、発酵食品に付随して料理の話も盛り込まれる。
醤油、酢、鰹節といった日常的な食材から、さんまの熟鮓や鮒鮨などの珍味まで、その作り方から歴史、文化的な背景が丁寧に解説されいます。
そして、物語の中心となる発酵食品が糠漬で、主人公は仕事の参考にと糠床を作りはじめるが、糠床について調べていくうちに思わぬ展開に。糠床に関しては、主人公に対する祖母または家族との絆のストーリーとなっています。その展開は、山本周五郎作品が如く、人間とは何ぞやといったちょと古風だが深く考えさせられる。
作者曰く、
肉眼では見えないものの存在を信じ、時間というものの持つ力を信じなければ、昔ながらの伝統と技法を守って味噌や醤油や酒や酢や鰹節を造り続けることはできない。
科学の発達によって、さまざまな発酵食品は短になったが、時間だけは短縮できないのだ。
発酵食品に限っても、いいものを造るためには時間がかかる。それなのに、私たちは、失敗や挫折や厄災からあまりにも早急に抜け出そうとして心を病んでいく。
本書は、発酵食品をまもろうとか再注目してほしいといった目的の本ではないんですね。
『目に見えないところで起こっていることに実は今まで護られていた』とも考えさせられるし、『経済的な効率や大人の事情を背景にいかにマガイモノが多いことか』とも読み取れる。
作中の一コマ
本物の発酵食品を守り続ける職人と出会い、限定本という非効率的な仕事を続ける中で、
どんなに慌てても先に進むわけではない。倦まず弛まず、という言葉があるが、そこにもうひとこと焦らずを加えたものが仕事の極意だ。
と考えるようになる。
ますます加速する経済優先、効率優先の社会の中で、伝統や文化を失っても楽をするのか、本物を守るために困難を覚悟するのかを、読者に問いかけているのだと思うのであります。
これって、日本の住宅事情にも言えることです。
目に見えないところで大事な役割を果たしてんですよ。